発声基礎

まずはリラックス

呼吸の項目で、「力を抜いて息を迎え入れる」という方法をご説明しました。
肋骨回りの筋肉を緩め、広げ、横隔膜を自由に動かしていくためには、呼吸時にリラックスすることがとても大切になります。

ぜひ鏡を見て呼吸してみてください。
息を吸おうと思いすぎると、力が入ってしまい、首回りに筋が出てしまうことがあります。
ブレスの段階で喉が力んでしまっては、効率よく息を循環させることも、しなやかに体を使って歌うことも難しくなってしまいます。
歌う前に、まずは首まわりの力から抜いていきましょう。

ストレッチ図

 

まずは左にゆっくり頭を倒します。このとき、左手を頭に添えて、手の重みをかけるとより効果的です。
そのまま右肩を顔のほうに限界まで近づけます。
そして、今度はゆっくり右肩を落としていきます。
ただ首を左に傾けたときよりも、よりぐっと伸びる感じがすると思います。
これを反対側も行います。

その後、ゆっくり首を右回り、左回りに何度か回します。

肋骨、肩甲骨の回りにも、声を支える際にはしなやかに使っていきたい筋肉があります。
両方の方を大きく前回り、後ろ回りにまわしてほぐしておきましょう。

次に全身の力を抜き、姿勢を整えていきます。

 

姿勢

カラオケで歌を歌うとき、座って歌う方も多いかもしれません。
姿勢の整え方がうまくなり、声の支えの道筋ができると、上半身が動いたり、座っている状態でも安定して歌えるようになります。
逆に考えれば、立っていても座っていても、この道筋がうまくできていない状態では、歌声は安定しにくくなります。

姿勢の図

 

 |補足| 丹田
呼吸法で「丹田」という言葉が出てきましたが、この「丹田」は、声の支えにとても重要な場所です。
「支え」と「力み」は大きく違いますので、本来はあまり強い力で引っ込めるような場所ではありません。
しかし初めのうち、姿勢のイメージがまだつかめていない段階では、呼吸の練習をしたり発声練習をする時、「丹田」を、少し大げさに意識してもらうことがあります。

右の図のように骨盤が後ろに倒れてしまうと、丹田の支えが声の道につながらず、無駄な力になってしまいます。
逆に反り腰になってしまうと、横隔膜が動くスペースが狭くなり、支えの重心が胸に偏り、胸式呼吸になりやすくなります。

骨盤をまっすぐ立て、自然と胸を開いてて立つことがとても重要になってきます。
体のロールアップで、骨盤がぶれない姿勢を見つけましょう。


体のロールアップ

上半身を折り、前屈
手がぶらぶらと下に下がって、首の後ろ側がしっかり伸びていることを確認します。
頭頂部が地面に向いているイメージです。
痛みを感じるほど無理に深く前屈する必要はありません。
ぶらぶら体をゆらす
上半身をぶらぶらと揺らします。
体の力が抜けるよう、首の後ろに力が入らないよう、引き続き気をつけます。
両手を腰に当て、ゆっくり体を起こす
体の力が抜けてきたら、両手を腰に当て、ゆっくり体を起こします。
この時、骨盤の上に背骨のパーツがひとつひとつ乗っかって、胸が乗り、首が乗り、最後に頭が首の上に真っ直ぐ乗っかるイメージを持ってください。

手を腰からはずします。

最後に前を向いたとき、頭の上から足の裏までが一本の糸で吊られているような感覚になるよう、整えます。
頭から起き上がってしまったり、腰が前後にブレてしまうと、いい姿勢に起き上がれなくなってしまいます。
慣れるまでは、鏡などを見ながら、自分の姿勢と向き合ってみてください。

 

リップロール

自分が今、声の出し方にどんな特徴があるのか判断が難しい段階では、このリップロールトレーニングをおすすめします。

唇をぶるぶる、と震わせる、子供の頃に遊びでやったような動きです。
検索をかけるとたくさんの動画がでてきます。

リップロールは、単純にウォーミングアップとして導入している講師も多いのですが、それだけではなく、歌に必要な3つの要素を確認するための優れた効果があります。

口の周りの無駄な力を抜くコツがつかめる
ここまで何度も言及してきましが、歌には「力み」が一番良くありません。
口の周り、舌ががこわばっていると滑舌が悪くなったり、音が固くなったり、こもったりする原因となります。
リップロールがぶるぶる、とできている時は、口の周りの力が最低限抜けている状態です。
息の量のコントロール
発声時、息は多すぎても少なすぎてもいけません。
その上限と下限を自然と教えてくれるのもリップロールです。
リップロールが止まってしまったときは、息の量や、吐く太さがあまり発声に適していないときです。
息は決して多すぎず、閉じた唇の隙間をピンポイントで目指すイメージで行います。
唇の隙間以上の範囲に吐きつけてしまうと、頬に空気が溜まってしまい、振動しなくなります。
喉のまわりのコントロール
声種の項目でも触れたように、声帯は「頑張っても動かせない」場所です。
ですので、声帯のコントロールを向上するには、リラックスした状態で、様々な高さの音に対応できるようにトレーニングが必要になってきます。
リップロールが安定して継続しているとき、喉や声帯は最低限リラックスしている状態です。
その状態で音を上下させることで、あらゆる高さのコントロールを声帯まわりに覚えさせていきます

地声でがなって高音を出す癖があると、リップロールでは細い裏声しか出ない、音にならない、という方もいるかもしれません。

また、声を出そうとするとリップロールが止まってしまう、音を動かすと止まってしまう、小さい音しか出ないことがあります。
声を出すときに喉がつまったり、音を変えようとするときに無駄な力がかかったりしている可能性があります。

このように、あらゆる条件が揃って初めて形になるリップロールは、一度で3つの効果が得られるとても優れたトレーニングです。
リップロールが安定したら、そのままのイメージで声につなげることで、理想的な発声への近道となります。

 

ハミング

ハミングも、声の出し方、発声の基礎として多く用いられています。
リラックスと、声を響かせる位置の認識にも役立てられます。

「N」や「M」の発音と呼んでいますが、「な(Na)」「ま(Ma)」の「a」を発音しない音です。
「ん」のように聴こえますが、喉の奥で「ん」と言おうと思い過ぎないように注意してください。
のどが詰まって、響きを感じることができなくなります。

上でも述べたようにハミングにはいろいろなやり方がありますが、「N」が歌の中で「ん」として使われる事が多いので、ここでは取り上げたいと思います。

何度か「ニンニン…」と繰り返してみてください。
そして「ン」の所で止めます。

ハミング図

 

舌は図①のような状態になると思います。
舌の先端が上顎について、歯の付け根、内側に触れています。
図の関係で少し口が縦に開いているようなイメージを持つかもしれませんが、あくまで「ニンニン…」の流れから自然と開いている空間で構いません。

口腔部分が潰れないように気をつけてください。
図②のように舌が塞ぐことのないようにします。響きを感じられなくなります。

また図①に戻ります。
この口の状態で、鼻からため息をついてみましょう。
「フン~~~~~」と声を出して、ため息をつきます。
この時の開放感が、ハミングの響きの感覚にとても近いのです。

低めの音でこの「鼻からため息」を実践し、鼻の前の方に空間を感じましょう。
あまり強く息を吐く必要はありません。大きな声にする必要もありません。リラックスし、楽な声を出してください。
地声に力が入りやすい方は、この方法ででう声を裏声と感じるかもしれません。

ハミングは、歌う前のウォーミングアップや、カラオケで声が上ずりやすいときなど、少し間に挟むとリラックスにも役立ちます。

 

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