よくある傾向と対策

高音が出ない

高音が出ない」「高音の出し方」を知りたい!というのは、本当によく聞く悩みです。
ボーカルスクールに通う人の7割がこの悩みを持っていると言っても過いいかもしれません。

一人ひとり持っている声帯は違うので、出せる限界の音域には限界がありますが、声帯のコントロールさえうまくなれば、少しずつ音域を伸ばすことも目指せます。

高音が出ないイメージ図

 

しかし多くの方が「楽に出せるはずの音」すら力任せに上がってき、「辛い」「高い」と感じます。
力が入ったまま声種の変化が出来ず、高音に至ると硬い裏声にひっくり返ってしまう。

これは、裏声の出し方を練習することで伸びていく可能性があります。

地声を力でぎゅっと出すクセばかりがついていると、音があがるたびに辛くなり、限界が来たときに一気に裏声へ抜け、その差を大きく感じてしまいます。

高音の伸び悩みについては、これだけが原因なわけではありませんが、多くの場合、裏声を積極的に出すのが効果的です。
今まで地声ばかりを使ってきた声帯で裏声を出すことで、脳や体に裏声の使い方を覚えさせていきます

「Ha」など息の通りやすい音で、高音から声を出し、だんだん低く下がっていきます。
最初のうちは、裏声で低音を出そうとしても音にならない方もいるかもしれません。
低い音で息がしっかり出るようになってくると、声種の変化をうまく行える準備ができてきます。

とても根気のいる練習ですが、楽な高音を手に入れるためのとても大切な練習です。あまり躍起にならず、いつかそのうち、くらいの気持ちでリラックスしてのぞみましょう。

また、発声基礎でご紹介したリップロールトレーニングも効果的です。
リップロールができているということは、最低限バランスが取れた音が出ているということです。リップロールでまっすぐ声を出し、途中で口をぽかんと開けて、そのままの声質で「あ」に変化させます。

レッスンでも、このようなトレーニングをする事がありますが、最初はリップロールをやめた途端、「あ」と言おうと思いすぎて声が強張ったりするかもしれません。
リップロールから声になった際、喉に力がかかっていないか注意しながら、だんだんと高い音へステップアップしていくことがポイントです。

高音を伸ばすには、この裏声のトレーニングを効果的に長く続けることがカギになります。

 

本当に高い音が必要か

現在、特に男性シンガーにおいては、「高音が出せる」ということがとても重視されているように感じます。
確かに高い声が出せれば歌の可能性は広がりますが、カラオケにはキーチェンジ機能がついていますし、バンドならコードを書き換えれば済みます。
オリジナル曲をやっているならなおさら、自分に辛い音を避けることも大切です。

歌がうまい人 = 高い声が出せる人

ではありません。
低い声が十分魅力的なのに、高い声を出そうとつらそうにしている姿を見ると残念な気持ちになります。
それはある意味、歌の上達から遠ざかる行為です。

「歌」は表現する手段のひとつです。
高い音が出るようになって、その音の魅力が増してきたら序々にキーを上げてもいいのかもしれませんが、出ないのに無理にそのキーで歌うのは、本当に必要でしょうか。

自分が出していて辛い音は、聴いている人も聴くのが辛い音です。
もっと自分にあったキーなら、歌うのも、聴いている人にも楽なのです。

「いかに高い声を出すか」から、「いかに今の自分の一番魅力的な声で歌うか」に考え方を変えるだけで、アマチュアっぽさから一歩抜け出すことができます。

 

息が続かない

得に高音部分で感じる方が多いのではないでしょうか。
単純に「肺活量をあげる」ことも解決策の一つです。
あまりに肺活量の少ない状態では、確かに息は続かなくなります。

しかし、「息が続かない」という悩みを持ってくる生徒さんに話を聞いてみると、「昔スポーツ部で肺活量には自信がある」という方が多かったりします。
そういった場合、歌の中で息が続かないのは別の所に原因があります。

息が続かないイメージ図

 

多い原因に「声を出すときに力んで息がつまってしまっている」という例があります。

呼吸法の章でも述べましたが、息の量をうまくコントロールしないと、自分の肺の飽和状態に気づかず肩を上げる力んだ呼吸を続けてしまいます。
また、息を吸う時に「腹式呼吸だから、お腹を出して吸う!」と思いすぎてしまうのもまた、腹部の緊張をうみ、リラックスして吸えない原因となります。

声を出すときに「お腹で支えなければ」と思いすぎてしまうのも注意が必要です。
高音ほど、「頑張ろう」という力が働いてしまい、つい力んでしまいます。
腹筋運動などで力を入れるとき、「うっ」と息を止めていませんか?お腹で支えようとしすぎると、これと同じ状態が起こります。
力んでうまく吐ききることができなければ、その後の息継ぎも当然うまく行かなくなってしまいます。

お腹の支えというのは、力で固めることではありません
必要なのは、一定の息を吐き続けるための体の状態に、姿勢を「引き上げる」程度です。

力を抜いていないと、力強い声はでません。

実際ボイトレでは、お腹を大きく動かすトレーニングをやる事もありますが、それは支えるための「体幹」を意識するためだったり、呼吸法の導入としてわかりやすく大げさな動きをしているだけだったりします。

また、息の量が多すぎて常に「裏声」の状態で歌っていると、息は切れやすくなります。
これに関する対策は、次の「声量が少なく感じる」の項にもつながりますので、そちらでお話していきたいと思います。


声量が少なく感じる

なぜ声量が少なく感じるのか、ふたつの可能性についてお話したいと思います。

発声が原因の場合

ひとつは、カラオケなどで「友達にくらべて声が小さい」「日常的に小さいと言われる」と言ったケースです。

「息が続かない」の項目でも述べた「息が常に多く出過ぎている」場合があります。
支えがうまく行かず力が抜けすぎていたり、逆に声帯まわりに力がかかっていたり、原因は様々です。
声帯がしっかりと触れ合わず、常に「裏声」状態で歌っているような状態で、息が多く抜けてしまいます。
高い音になれば更に開いてしまいスカスカ声が出なくなったり、または逆にそれをなくすために声をつめてしまったりします。

声量イメージ図

 

声帯同士が無理なく触れるようにするトレーニングのひとつとして、「エッジボイス」と呼ばれるものがあります。
検索をすると動画がいくつも出てくるかと思いますが、重要なのは、あまり「低い」と思いすぎずに行うことです。
声帯が寄りにくい方は、低音を出すときに無意識に力んでしまうことが多くあります。
リラックスして行えていない場合、声帯を痛める可能性がありますので、注意が必要です。

エッジボイス以外にも、「い」母音など、狭い的をイメージし易い音を使ってトレーニングすることもあります。
声が芯になりやすい高さからスタートして、次第にいい音が出る音域を広げていきます。
その後、他の母音でも同じ響きで出せるよう調整していきますが、ここでも、現在どのような声が出ているのか、しっかり見極めて進めることが重要です。

当然、生徒さんによって、「低音がつまって中音域が息漏れ」という方、「低音も中音もスカスカと息漏れする」、「高音だけスカスカになる」など傾向が違っています。
闇雲に同じトレーニングを繰り返すのではなく、少しずつステップアップをしながら、それぞれその特徴に適したトレーニングが必要となります。

 

環境が原因の場合

声量不足を感じるのが、スタジオ練習やライブなどのときは、環境によるものが大きい可能性があります。

始めたばかりのバンドでは、演奏する楽器の人たちも、音量や音色についての知識が少ない事があります。
「デカい音の方が気持ちいいから」でギターの音量を上げられてしまっては、ボーカルとぶつかりやすい音域では負けてしまいます。

ライブシーンの図

 

「お前の声量が不足しているんだ」と音量バランスを顧みないバンドだとしたら、今後の成長は見込めないかもしれません。

ボーカルはバンドの顔です。

通常初見のお客さんは、バンドの演奏ではなく、ボーカルを見て、聴いて、そのバンドの良し悪しを判断します。
どんなに凄腕のギタリストがいても、すばらしいリズム隊がいても、ボーカルの声が聴こえなくては残念な印象しか残りません。
お客さんに感想のアンケートを取れば、「ボーカルが小さかった」「何を言ってるか聴こえなかった」と言われてしまうでしょう。

バンドは運命共同体です。

声量、発声は一日や二日で向上するものではありません。
極端に肺活量が少なくて声量不足、という場合は、肺活量を上げる有酸素運動を短期的に詰め込めば、早い効果が望めることもあるかもしれません。
しかしそうでないのなら、声帯のコントロールが上手くなるまでには時間が必要です。

習得までの期間が短い方もいれば、長い方もいます。
それは、声帯を今まで日常的にどう使ってきたかによって大きく異なります。

それを理解して、「今のメンバーの能力で最善の音量バランス」でライブ、練習を行うことが、バンドの成長にはとても大切です。

聴こえないからと無理やり喉をしぼり、声を張り上げる歌唱を続けていると、いつの日か声帯を壊し、そのバンドはボーカルを失うことになってしまいます。
ギターは弦を張り替えれば済みます。
しかし声帯は交換ができません。ボーカルを交代させてしまったら、もうそれは違うバンドになってしまうでしょう。

そうならないためにも、運命共同体であるメンバーとは、しっかり相談していく必要があります。
それが、自分たちにも、聴いてくれるお客さんのためにもなります。

 

すぐに声が枯れる/疲れる

声が枯れる、喉が疲れる現象にはいくつか原因があります。「力み」もその原因の一つです。

高い音が出ない、大きい音が出ないからといって、喉や体を締め上げて力で出していると、2、3曲歌った時には声が枯れてしまいます。

声帯の丈夫さには個人差があります。
丈夫な人は、多少無理をかけても傷まないかもしれません。
しかしそれでもずっと負担がかかる歌唱を続けていれば、そのうち声帯は傷ついてしまいます。
プロを目指すのであれば、なおさら注意が必要です。プロになったら毎日歌います。更にライブでは、20曲近く連続して歌うことになります。

ミックスボイスの練習など、力を抜き、呼吸を整えて体で支えるということを意識すると、はじめは細い、弱い声しか出ないかもしれません。
それでもそれを根気よく続けることが、歌には大切です。

しかし、全く力をかけてはいけないのかというと、そういうわけではありません。
表現力の一つとして、あえて力む場所があってもいいのです。むしろ、全くなくなってしまうと、歌は少し味気ないものになってしまいます。

どんなに歌が上手い人でも、連続して歌い続ければ喉は疲れます。

そのさじ加減を上手に調節するためにも、まずはしっかり力を抜いていく所からはじめましょう。

 

声帯疾患の可能性

今まで普通に出ていた声が、急に枯れやすくなったりかすれたりした時は要注意です。
声帯結節、ポリープの疑いがあります。
「声が枯れやすくて」という生徒さんのにその疑いを感じ、病院での診察をすすめることがしばしばあります。

声帯はとてもデリケートな器官です。
無理な発声をずっと続けていると、いつしか一番酷使した部分に「マメ」のようなものができます。
これが結節です。

これは小さなものでも声帯が開閉運動をする妨げになります。
完全に声帯が閉じなくなってしまうので、常に息が抜けて、枯れているような声質になってしまうのです。
大きなものになると、全く声が出せなくなります。

教室中に声を届かせるために大声を張り上げる学校の先生などにも多い疾患です。

声帯結節の原因には、もちろん無理な歌唱や大声もありますが、「咳」も要注意です。

普段しゃべっているときより、この「咳」をするときにかかる声帯への負担はとても大きなものです。
風邪をひいてこじらせ、悪化して咳になってしまわないよう、注意が必要です。

 

加湿をしよう

喉のケアとしては「加湿」がとても有効です。
カラオケで歌うと喉が乾くから、と飲み物をたくさん飲む人がいますが、飲んだものが直接声帯を潤すことはありません。

吸入器の図


声帯をすぐに、直接潤すことができるのは「湿気」です。

飲み物や食べ物は食道へ入り、空気は気道に入ります。
声帯は「気道」にありますので、すぐに乾燥を緩和したい場合、空気に乗せて潤いを与える必要があります。

もししっかりとした効果を望むのなら、「吸入器」がオススメです。
霧状の蒸気を出す電化製品です。
安価なものから、高価なものまでありますが、高価なものになると粒子が細かく、より効果的に潤すことができます。

携帯用吸入器
置型吸入器

参考までに、病院などで紹介しているものをご紹介します。携帯型は粒子は荒いのですが、出先で使えるのでスタジオ練習などに便利です。

吸い方のコツを掴むまでは少しむせやすいですが、生理食塩水などを使うとむせにくくなりますので試してみてください。(機器によっては故障の原因になるので使用できないものもあります)

また、吸入器まで買わなくても…という方には、カラオケではぜひ温かい飲み物を頼んでください。
少し喉が疲れたな、なんて時に注文し、蒸気を吸うと楽になるかもしれません。


マイクで音割れする

歌は下手じゃないのに、聞こえ方に差を感じる原因の一つに「マイクの音割れ」があります。

歌には、Aメロ、Bメロ、サビなどがあり、それぞれに適した表現が必要です。
Aメロから力いっぱい歌い始めてしまっては、サビの盛り上がりにかけてしまうだけではなく、喉もつかれてしまいます。

でも、力いっぱい歌わないと自分の声が聞こえない!と感じるかもしれません。

ここで「マイクワーク」というものが必要になります。

ぜひ、誰か好きなアーティストの曲を聞いてみてください。バラードがわかりやすいかもしれません。
Aメロは囁くような歌いまわしだけれど、サビでは伸びやかに、声を張っているように聞こえます。

しかし、バックサウンドに比べて、Aメロが埋もれたり、サビだけやたら声が大きくなったりしていないと思います。
これはレコーディング時に、録音レベルをAメロだけ大きく、サビは声を張るので小さく設定するなど調整が可能だからです。

しかし上手な歌い手さんは、自分でもマイクとの距離感を操作できます。生で歌う時には、それが自分でできなくてはいけないからです。

Aメロではぐっとマイクを近づけて、サビでは少し口から離します。高音で声を張るなら、その場所だけマイクを離して歌います。

言われてみると、それをやっている歌手をよく見る気がしませんか。

実践する時は、まず目一杯近づけて、Aメロのイメージで声を出します。
その時の声が、バックサウンドに埋もれないようにマイク音量を調節してください。
逆にマイクを離した状態で、サビなど声を張ったところを基準にセッティングするのもひとつの方法ですが、マイクをどれくらい離せばいいのかわからない状態なら、まずは近づけたAメロイメージを固めてしまうほうが分かりやすいと思います。
特にカラオケなどで曲中で声が聞こえない、という方の多くは、セッティングが原因です。

サビでは、声量が上がる分だけマイクを離します
離しすぎて声を拾わなくなってしまわないように気をつけましょう。
自分の声量を計算してマイクとの距離をとるのは、決して簡単ではありませんが、だんだんと慣れてきます。

このコントロールがうまくいくかいかないかで、歌の仕上がりがかなり違ってきます。

 

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